プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)とは、企業の経営戦略において「限られた資源をどのように配分するか」を扱う有益なフレームワークです。
多種類の製品を生産・販売したり、複数の事業を行っている企業が、最も効率的・効果的な製品・事業の組み合わせ(ポートフォリオ≒資源配分)を決定するためには、何らかの基準や分析手法を用いることが必須です。そのための経営分析・管理手法のことをプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)と言います。
その代表的なツールが、ボストンコンサルティング グループ(BCG)が提唱した「プロダクト・ポートフォリオ・マトリクス」です。
BCGは、累積生産量が伸びるほど生産コストが低減するという事実(エクスペリアンス・カーブ)から、市場シェアの獲得がコスト競争力を得るために非常に重要であるという事実を発見しました。その事実に基づき、市場シェアの獲得と事業の成長率を軸とした、企業の意思決定ツール「プロダクト・ポートフォリオ・マトリクス」を創り出しました。
「プロダクト・ポートフォリオ・マトリクス」では、横軸に競合他社との相対的マーケットシェア(=キャッシュ創造力/市場シェアが高いほど価格競争で優位に立てるためキャッシュを生む)を、縦軸に市場の成長率(=キャッシュ需要/業界成長率が高いほど投資が必要)を取った4象限のマトリクスを設定し、各製品・各事業をプロットすることで全社における製品・事業のポートフォリオを把握し、戦略的意思決定を行います。
具体的な各象限の意味づけ・取るべき戦略は以下のとおりとなります。
花形(star)
自社のシェアが高く成長率も高いため、多くの収入を見込める分野です。ただし、市場の成長に追いつくためにそれなりの投資も行う必要があり、投資の優先順位が高い分野です。
成熟した市場になったときの利益を確保するために、シェアを拡大・維持する戦略を取るべきです。
金のなる木(cash cow)
成長率が低下していくにつれ、投資はそれほどする必要がなくなります。こうなると、大きな利益が見込めるようになり、利益を生むことがこの分野にある事業・商品の最大のミッションとなります。ただし、市場は一般的に衰退していきますので、利益を上げている内に、「花形製品」や「問題児」への投資を行う必要があります。
しかし、この分野に対する投資は多くなりがちなため、不必要な投資はしないという意思決定が必要になります。投資によってではなく、コストを下げて、利益を出すことが求められます。
問題児(problem child)
成長のために大きな投資を必要とする製品群です。シェアを拡大することができれば、花形製品へとなる可能性を秘めているため、事業・製品を育成することが基本戦略となります。ただし、この段階で投資すべき事業かどうかの判断・見極めを行うことが必要です。そのため、クエスチョンマークという言い方もします。
負け犬(dog)
シェアも低く市場成長性も低い分野です。早急かつ賢い撤退が必要であり、従業員・営業先などを考慮したうえで撤退戦略を描く必要があります。
このように、「プロダクト・ポートフォリオ・マトリクス」はシンプルで実効性の高いツールです。ビジュアル化してシンプルに整理できるため、状況を整理・共有する場合に効果的で使いやすいツールと言えます。
一方で、「プロダクト・ポートフォリオ・マトリクス」の抱える問題点もあります。
1つ目は複数製品間で働く相乗効果が、ポートフォリオ上には表現しづらいという問題です。仮に「負け犬」にプロットされる製品であっても、ヒト、モノ、情報という観点から、他の製品に効果をもたらしているケースもありえます。
2つ目は、「プロダクト・ポートフォリオ・マトリクス」ではマーケットリーダーを目指す戦略が示唆されていますが、業界によっては市場シェアとコスト低減の相関が当てはまらないケースも存在します。差別化によるニッチ戦略が成り立つ場合には、単純に「プロダクト・ポートフォリオ・マトリクス」を当てはめるだけで戦略を決めるのは早計と言えます。
3つ目に、平均の市場成長率の置き方にも気をつける必要があります。自社ポートフォリオ内の平均というだけでなく、GDPなど世の中全般の成長指標との比較をする必要があります。
そのため、最終的な意思決定を行う際には、他のツールも併用して判断することが望まれます。
また、「プロダクト・ポートフォリオ・マトリクス」では単純すぎるという批判もあります。同様の経営管理手法として、GEとマッキンゼーが、両軸の評価方法を複雑化したうえで9つの象限に分けたビジネススクリーン(GE Nine Cell Planning Grid / GE's Business Screen)という手法を開発しているので参考にするのもよいでしょう。