法務部リスク管理課

法務部リスク管理課に所属しながら、中小企業診断士としての活動を模索中。

企業経営と企業財務

企業経営における財務の役割は、経営目標の実現(一般には企業価値の最大化)のために、(1)どのような投資対象にいくら投資するか、(2)どのような手段で必要な資金を調達するか、を判断し実行することである。そのためには、金融市場に関する理論であるファイナンス理論の理解が不可欠である。

企業財務と企業会計の違い

企業財務と企業会計はしばしば混同される。会計とは企業の日々の事業活動を、所定の規則に従って数字の形で表現し、記録・報告することだ。そのため、会計では原則的に過去と現在を視野に入れて考える。

これに対して、財務では経営目標の実現を目指して、事業活動と表裏一体で流れている資金(キャッシュフロー)を管理し、その活動を通じて企業価値の最大化を図ろうとする。今後の企業活動から生じるキャッシュフローをいかに効率的に増加させるかを主眼としているので、財務では当然ながら企業の将来に重点が置かれる。したがって、財務戦略は企業にとって事業戦略と同様に重要な支柱となる。

企業財務の役割

それでは、財務が企業経営においてどのような役割を果たしているのか、少し具体的に見ていこう。

企業の事業活動には資金が必要である。原材料の仕入代金や従業員の給与など日々生じる経費は通常、売上げから賄われる。しかし、そうした日常的な支払いとは別に、企業が長期的に存続していくためには、どのような資産を保有し、何に投資すべきかといった長期的な資金運用についても検討する必要がある。同時に、資金をどこから、どのように調達するかも決めなくてはならない。これら短期と長期の資金計画の策定・管理を行うのが財務の役割である。

図は資金が投資家あるいは金融機関から企業へ流れ、再び投資家あるいは金融機関へ戻る様子を単純化して示したものだ。
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まず、企業は資金を得るために、(1)有価証券等(株式、債券)を投資家向けに発行したり、銀行から借り入れて、(2)この資金が主に企業の事業活動に要する資産の購入などの事業投資活動に充てられる。その後、事業活動が成功すれば、(3)これらの事業投資が収益(キャッシュフロー)を生み出す。このキャッシュフローは、(4a)企業内で留保されて再び事業投資に振り向けられるか、(4b)この企業に資金を提供した投資家や銀行に還元される。

財務活動が目指しているのは、経営目標の実現にどれだけ貢献できるかということである。その中でも、「企業価値の最大化」が中心的な課題となる。したがって、企業財務の役割は、企業の事業活動のために金融市場から資金を調達し、資金提供者に報酬(リターン)を返しつつ、企業価値の最大化を図っていくことだと言うこともできる。

金融市場に関する理論
(ファイナンス理論)の重要性

 財務の役割を遂行するためには、金融市場に関する理論であるファイナンス理論の理解が不可欠だ。企業が投資や資金調達を行う際に、ファイナンス理論を踏まえていなければ、的確な意思決定ができないからだ。

 たとえば、企業が工場拡張資金を調達する目的で債券を発行しようとする場合、財務担当者は債券の発行条件や価格を決めなくてはならない。それには、債券の価格がどのような理論に基づいて決定されているかを知る必要がある。また、債券発行が株主に及ぼす影響を検討するときにも、負債と株主資本(株式)の関係を理解しておかなくてはならない。生産現場のマネジャー・従業員にとっても、事業投資に関して意思決定を行ううえで財務の知識が重要になりつつある。

 企業価値の源泉となるキャッシュフローは事業活動によって生み出されるが、ファイナンス理論は、そのキャッシュフローがどのようなメカニズムで企業価値に反映されるかを教えてくれる。近年、企業価値の最大化の重要性が叫ばれているなかで、企業全体が一丸となってこの目標を追求するには、財務担当者のみならず現場の従業員たちもファイナンスの知識を十分に理解していなければならない。