法務部リスク管理課

法務部リスク管理課に所属しながら、中小企業診断士としての活動を模索中。

最適資本構成とは?

企業の最適資本構成


企業にとって最適な資本構成とは、すなわち資本コストをできる限り小さくする資本構成のことです。なぜなら、資本コストが小さいと企業価値が大きくなるためです。ここでは、最適資本構成について解説します。


完全資本市場下では


企業の資本構成(自己資本他人資本の配分)を完全資本市場で考えます。完全資本市場とは次のような状態です。

①情報取得コストがゼロ
②法人税がゼロ
③商品の流動性が十分にある

この状態では、企業の資本構成がどのような構成になろうと、企業の価値は変わりません。これをモジリアニ−&ミラーの法則、またはMM理論と呼びます。


実際の市場下では


それでは、実際の市場で資本構成を考えてみます。割引率のページでも紹介しているように、企業の資本にはコストがかかります。そして、そのコストは自己資本(=株式)か負債かで異なります。

一般的に負債より株式による資金調達の方がコストが高くなります。なぜなら有利子負債の利子よりも株主の期待する利回り(リターン)の方が大きいためです。なぜ、株主の方が期待利回りが大きいのでしょうか?

例えば、株主と有利子負債の提供者で考えたときに、会社が儲けようが、損しようが関係なく利子を受け取るのは有利子負債の提供者です。一方で、株主は有利子負債の利子など会社が優先的に支払わなければならないお金を支払った残りものを山分けすることになります。

したがって、会社が大きく儲ければ分け前も大きくなりますし、逆に損失が出た場合は株主の拠出したお金が削られていきます。つまり、有利子負債の提供者は会社の儲けや損に関係なく利子が受け取れる(リスクが小さい)のに対し、株主はリターンが会社の儲けや損に影響を受けやすく(リスクが大きい)なります。このように大きなリスクを背負っている株主が有利子負債の提供者よりもリターンを要求するのは当然といえます。

また、有利子負債の金利には節税効果もあるので、有利子負債があると獲得できるキャッシュフローが大きくなるので、企業価値の向上につながります。


負債比率と企業価値の関係


前述のように負債比率が上がると、資本コストが下がるうえ、節税効果が生まれるために企業価値は上昇します。ところが負債比率が大きくなりすぎると、景気の落ち込みで借入金が返済できなくなるなどの財務リスクを加味する必要が出てきます。

財務リスクが増加するということは、負債コストが上昇することを示します。これは、リスクの大きさの分だけ債権者が高い利払いを要求するようになるからです(企業の格付けが下がるので利払いが増えるという言い方もできます)。

また、負債比率が上がれば、株主の要求利回りも上がっていくことから株主資本コストもあがっていきます(CAPMでいうとβが上昇します)。

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したがって、負債比率が高まり、財務リスクが一定の大きさを超えると、資本コストは減少から増加に転ずるのので、負債比率と企業価値の関係をグラフにすると次のようになります。
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企業価値 = 無借金状態の企業価値
         + 借金による節税効果 − 借金による財務リスク


企業が有利子負債を持つことが、必ずしも悪いことではありません。特に、業績の変動リスクが小さい会社は、無借金だと買収(特に買収先企業を担保に資金を借りて買収するLBO)の対象になる場合もあります。

ただし、実際は負債比率がいくつを超えるとWACCが下がるといったことは明確にはわかりません。したがって、企業は有利子負債の利点とリスクをよく吟味し、同業他社の負債比率を参考にしながら手探りで最適な資本構成をしていくことが重要になります。


格付けと企業価値

負債比率が増えると企業の社債の格付けが落ちます。昔は格付けが落ちることは嫌われていたので、企業はなるべく借金を圧縮して格付けを落ちないように努める傾向がありました。

しかし、最近では、格付けが落ちることよりも企業価値が上がることを優先して有利子負債を増やす傾向が強くなってきました。花王によるカネボウの買収が全額有利子負債で賄われたことが、企業価値が上がることを優先した例として挙げられます。格付け重視から企業価値重視の傾向は今後も強くなりそうです。


日常生活でも負債比率のマネジメントは重要

会社経営に携わっていない個人でも負債の使い方は非常に重要です。例えば不動産のような大掛かりな投資をする場合、自己資本を抑えて負債を使い、レバレッジを効かせることで、自己資本に対して大きな利回りを得ることができます。そして負債による節税効果を期待することができます。