法務部リスク管理課

法務部リスク管理課に所属しながら、中小企業診断士としての活動を模索中。

契約書作成の基礎知識


◆はじめに◆
契約は、双方の合意があれば、それだけで有効に成立します。「売りましょう」「買いましょう」という合意さえあれば直ちに売買契約は成立します。したがって、契約というものは、双方が文書の取り交わしを していないから、また、契約書に調印していないから契約は成立していないという考えは大きな間違いであるということになります。


しかし、例外として法律が契約書を作るように特別の規定をおき、契約の書面化を要請しているものもあります。例)農地の賃貸借契約、建築工事請負契約、事業用定期借地権設定契約等それでは、なぜ契約書を作るのかというと、もしも相手が契約の存在を無視したり、契約 どお約束を 実行してくれなかった場合、その相手方に何か証拠を示して、その履行を請求しなければならないですよね。こんなとき、何より確実・有力で客観的な証拠が契約書の存在です。文書に記載した証拠は、証明力が高く、これに署名押印した当事者は、後になってその存在や内容を争ったり、その効力を否定することは大変困難だといえるでしょう。


後々「言った」「言わない」、「聞いた」「聞いていない」といったトラブルや、お互いいやな思いをしないためにも「契約書」という文書で約束事を書面化されたら如何でしょうか?

以下、契約書全般に関する基本的な事項をご紹介いたします。



◆署名と記名の相違点について◆
契約書や念書、誓約書などには、署名と押印はつきものです。署名捺印することによって 「このとおりお約束しました」という当事者本人の真意に基づいたものであることを担保することとなります。そこで、署名と記名の相違点を明確にしておきましょう。


署名とは、自ら手書きで自分の氏名を書くことです。また、記名とは、氏名を彫ったゴム印や、ワープロ・タイプで氏名を打ったり、または、他人に氏名を代書してもらったりする場合をいいます。それでは、なぜ法律は、署名と記名を区別しているのかというと、署名の場合は捺印不要だが、記名のときは押印を要するからです。


つまり、署名=記名捺印というのが建前なのです。法律が要求する第一原則は署名であり、第二原則が署名に代わる記名捺印という順序となります。上記で、署名=記名捺印というのが建前とのお話をしましたが、署名があれば捺印は不要であるかといえば、実はそうでもありません。裁判で、契約書が証拠として採用されるには、その文書が本人の真意により作成され、最終的な意思表示として認められるかなどを実質的に判断、審理されて、はじめて証拠として採用されます。よって捺印の習慣のない外国人相手の場合は別として、印を押すということが日本古来の慣習であることを考えた場合、細心の用意で署名に加えて捺印しておくのが安全な方法であるといえるでしょう。



◆実印と認印◆
印鑑に実印と認印(私印、実印以外の印)があるのはご存知でしょう。実印の押印を求められるときは、通常、印鑑証明書もセットになっていることが多いと思います。実印を押さなければならない場合は、公正証書を作成するときや、各種登記申請(全ての登記ではありません)をするときなど、不動産の売買や会社設立等、人の人生の節目で実印の押印(印鑑証明書の添付がセットで)が求められるため、実印は非常に大切にするが、認印をともすればルーズに扱ったりします。

しかし、上記以外の文書に押印した印鑑については実印でも認印でも法的効果は変わりません。

つまり、文書が署名または記名した人の意思で作られたものであるかどうかが重要で、押印された印の種類で、その効果が左右されるのではありません。つまり、結論からいえば、契約書を作成したときは、署名に加えて、実印を押印し、印鑑明書を添付するのが一番安全であるといえます。また、契約書が複数枚にわたるときは、当事者それぞれ契印を忘れないようにしましょう。



◆契約の当事者について◆
契約をかわす場合、当事者が権利者かどうか確認する必要があります。例えば、土地の売買であれば、売主は原則として所有者ですよね。自称所有者では、トラブルの元になります。登記簿謄本などであらかじめ確認をしておく必要があります。

また、会社や法人と契約する場合は、本当に当該会社・法人の業務執行権をもつ代表取締役や理事長などであるか確認しておきましょう。登記簿謄本で、代表者の氏名と住所を確認することができます。要するに、契約の目的となった権利について処分権限のある人を当事者として契約しなければ契約をした目的は達成されないということです。*他人の物の売買は民法に規定されており、その旨の契約が直ちに無効という意味ではありません。



・契約書の構成要素について
(1)表題(タイトル)
売買契約書、金銭消費貸借契約書など、表題で契約内容がイメージできるような具体的なものにしましょう。ただし、表題が、覚書や念書といった文書でも、その実体が契約の内容を記載していれば、契約書として扱われます。


(2)印紙
印紙税法の定めに従い、不動産売買契約書、金銭消費貸借契約書など、印紙を貼り、消印する必要があります。同じ内容の契約書であっても作成した通数分の定められた額の印紙の貼付が必要です。ただし、印紙の有無は、契約内容(法律行為)の有効無効とは直接関係はありません。

*公正証書の場合は、原本、正本、謄本のうち、原本のみに印紙の貼付をすれば良く、正本や謄本には印紙の貼付は不要です。したがって、印紙税額が高い場合には、公証人手数料の支払いを含めても、公正証書にした場合の方が、費用の節減ができるケースがあります。印紙税額については国税庁のホームページ内の印紙税額の一覧表をご覧ください。


(3)当事者の表示
契約当事者(たとえば売買契約の場合、売主と買主)を明確にしておきます。前文の中に当事者および当事者の略称(甲、乙など)を表示するものと、表題の次に、当事者の住所氏名(法人の場合は、所在名称)、略称や立場(売主・買主、賃貸人・賃借人等)を表示するものがありますが、どちらのパターンでも良いでしょう。


(4)債権債務の内容
これは、契約条項(本文)になります。各契約によって適切な記載事項を条文ごとに詳細に記載します。各契約の種類については契約書作成サポート(各論編)をご覧ください。


(5)作成年月日
必ず必要な記載事項です。忘れがちですが年月日を正確に記載しましょう


(6)物件の表示
たとえば、不動産に関する契約の場合は物件の明細を登記簿謄本と同じように記載します。


(7)確定日付
契約書を作成した日付を公に証明する場合は、公証役場に持参して確定日付を押してもらいます。手数料は一通700円です。ただし、これによって、契約書の内容までも証明してもらえるわけではありません。